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『テロ,ライブ』(2013) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑩(文/岡本敦史) original image 16x9

『テロ,ライブ』(2013) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑩(文/岡本敦史)

解説記事

2022.08.03

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おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。

目次

“電話の声”をサスペンスの中核とするストーリーのシチュエーション・スリラーは作品成功の難易度高し。そのトップ3に間違いなく入る傑作

ある限定空間を舞台に、限られた登場人物が繰り広げる、命がけの駆け引き――いわゆるシチュエーション・スリラーと呼ばれる作品は、脚本の構築力、監督の演出力、そして役者の演技力がすべて高いレベルで揃わないと実現不可能なジャンルだ。なかでも“電話の声”をサスペンスの中核とするストーリーとなると、現実味・説得力・スケール感・展開の起伏を与えるうえで難易度が急激に跳ね上がる。だからこそ成功作に出会ったときの喜びは大きく、『フォーン・ブース』(2002)、『THE GUILTY/ギルティ』(2018)など忘れ難い作品も少なくない。そのトップ3に間違いなく入る傑作が『テロ,ライブ』である。

 上映時間97分というタイトな尺、驚愕のエンディングに浮かび上がる反体制スピリット、そして韓国エレクトロニック・ミュージックの雄といわれたCaskerのイ・ジュノによる音楽……監督・脚本をつとめたキム・ビョンウに、思わず「韓国のジョン・カーペンター」の称号を与えたくなる強烈な一作だ。

 ある日の朝、元人気アナウンサーのヨンファ(ハ・ジョンウ)がパーソナリティをつとめるラジオ番組に、1人のリスナーから奇妙な電話がかかってくる。「いまから漢江にかかる麻浦大橋を爆破する」――ヨンファはその言葉を単なるイタズラだと適当にあしらうが、次の瞬間、スタジオの窓から見える麻浦大橋が本当に爆破された! ヨンファは咄嗟に警察への通報を思いとどまり、犯人との対話をテレビで独占中継しようと画策する……。

 ここから先は説明不要! 最後まで観て損なし! と言い切ってしまいたいぐらいだが、返り咲きを狙う野心家のアナウンサーVS姿なきテロリストの対決という「読める展開」だけでは決して終わらないことは断言しておきたい。イ・ミョンバク、パク・クネという保守派の大統領が2期連続した2013年当時、ここまで力強い体制批判をエンタテインメント作品のなかで打ち出してくるあたり、実に(羨ましいほどに)韓国映画らしい。それにしても、いまの日本人にとって「決して許されない行為だが、その動機には同情の余地もある」テロ事件の顛末に、こんなにも複雑な思いが去来するタイミングはないのではないか。

 また、ダイナミックな感情曲線を描く主人公ヨンファの変容のドラマとしても見応え満点だ。ほぼ全編出ずっぱりで映画全体を引っ張る「主役としての華」もありつつ、人間的な小狡さや無様さをさらけ出すことにも躊躇がない俳優、ハ・ジョンウの存在ありきの作品ともいえる。

 そして本作は何より、イ・デヴィッドの映画でもある。イ・チャンドンの『ポエトリー アグネスの詩』(2010)、チャン・フンの『高地戦』(2011)、シン・スウォンの『冥王星』(2012)など、錚々たる監督たちがこぞって彼を起用し、そのどれもが傑作だった時期があった。『テロ,ライブ』も、まさに神童イ・デヴィッドの絶頂期を代表する一作である(その役柄は秘密にしておこう)。
Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
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