かつて、キネマ旬報誌に「本場もの顔まけの残酷西部劇」と『続・荒野の用心棒』を評する記事が載った。耳を切り取り、両手指を潰す「ジャンゴ」=『続・荒野の用心棒』は、当初日本では残酷西部劇と呼ばれたのだが、その前にイタリアには、『世界残酷物語』[1961]などヤコペッティをはじめとする
残酷ドキュメントの歴史があったのだ。特に『ヤコペッティの残酷大陸』[1971]はドキュメンタリーに見せかけたドキュ・ドラマで、アメリカへ連れてこられた黒人奴隷たちの悲惨な実態が描かれた。
アメリカでも1975年になって南北戦争前の黒人奴隷牧場を舞台にしたドラマ『マンディンゴ』が作られた。
クエンティン・タランティーノは、「ジャンゴ」=『続・荒野の用心棒』に『マンディンゴ』をかけ合わせ、オープニング&主題歌は本家そのまま、セルジオ・コルブッチへのオマージュを捧げつつ、
「人種差別に抗う人々の気持ちを代弁する」アクション西部劇として『ジャンゴ 繋がれざる者』[2012]を作ったのだ。妻を愛する男である本家ジャンゴ(妻の墓と一緒に敵を倒すのだ!)の隠れテーマも見事に表舞台に格上げされ、女性観客の心も打った。ジャンゴの妻が『荒野の1ドル銀貨』[1965]のイヴリン・スチュワートを思わせる衣装をまとっていたのも気が利いていた。
もちろん、タランティーノ監督が事前に
東京・新宿の某映画ショップで大量のマカロニ・ウエスタン・サントラCDを購入し、挿入曲を選んだのは言うまでもない。『
ジャンゴ 繋がれざる者』は世界中で大ヒットし、
東京・渋谷区の某ホテルで書き始めた脚本は、見事アカデミー脚本賞を獲得した。
見逃しちゃいけないのが、元祖ジャンゴ=フランコ・ネロの特別出演場面だ。「ジャンゴ」の発音について教授してくれるので、しっかり見よう。ネロはスターチャンネル独占放送のテレビ・ミニシリーズ『
ジャンゴ ザ・シリーズ』[2022]にも渋い役で特出していた。『
続・荒野の用心棒』出演時は24歳、齢80を越えて、まだまだ元気なジャンゴ=フランコ・ネロよ、永遠なれ。