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『FARGO/ファーゴ』のクリエイター、ノア・ホーリーが放つ唯一無二の魅力(文/今祥枝) original image 16x9

『FARGO/ファーゴ』のクリエイター、ノア・ホーリーが放つ唯一無二の魅力(文/今祥枝)

解説記事

2021.11.24

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海外ドラマ『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』について、クリエイター、ノア・ホーリーの魅力とともに今祥枝さんが解説。唯一無二の魅力とは?

狂言誘拐が巻き起こす悲喜劇を描いたコーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)。この名作映画に題材を得た『FARGO/ファーゴ』(2014~)は、中毒性のある魅力に熱心なファンの多いTVシリーズだ。映画と同じく「This is a True Story」という、おなじみの文言(実際にはフィクション)で始まり、1シーズンごとに俳優、物語が一新されるアンソロジー形式で、現在シーズン4まで制作されている。新シーズンが始まるたびに、「”あのファーゴ”が戻ってきた!」と心が躍るファンも多いに違いない。一方で、今回日本で放送が始まるシーズン4から視聴する人もいるだろう。アンソロジーなので単体でももちろん楽しめるのだが、シリーズ全体としての楽しみ方や作品の背景を知ると、面白さが増すはず。そこで、本稿では本作のアメリカのTVドラマ史における位置付けを再確認しながら、本作の面白さを紐解いていきたい。

2014年に当時FOX傘下だったケーブル局FXで放送が始まった『FARGO/ファーゴ』は、驚きと称賛を持って批評家たちに迎えられた。そもそも映画のドラマ化はリスクが高く、話が浮上しては消え、なんとかパイロット版までこぎつけてもシリーズ化には至らなかった例も数知れず。しかもコーエン兄弟の映画は完璧で、あれをドラマ化するの? と懐疑的な向きも少なくなかった。ところが蓋を開けてみれば、物語として映画にもっとも近いシーズン1は、それまでの”映画のドラマ化”の概念を覆した。『ファーゴ』のロジャー・ディンキンスによる雪景色が印象的な映像と、コーエン兄弟が作りあげた世界観をかなり高いレベルで共有しているにもかかわらず、独創的な映像世界。前日譚でも後日譚でもリメイクでもなく、『ファーゴ』と同じような設定で始まるが、全く異なるオリジナルの物語が展開するという仕掛け。こんな方法があったのか! と思わされた業界人も多かったと思う。これは紛れもなくクリエイターでショウランナーである、ノア・ホーリーという才能の成せる技である。
人気ドラマ『BONES』のプロデューサーと脚本家をつとめたホーリーは、『晩夏の墜落』(2016)でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞した作家でもある。また作曲家でもあり、本作や自身が手掛けた『レギオン』などでパフォーマーとしてもサウンドトラックに参加している。とにかく多才だ。映像作品としてはクリエイターを務めた『The Unusuals』(2009)、『My Generation』(2010)は不発に終わったが、『FARGO/ファーゴ』でその才能を開花させた。そんなホーリーの最大の強みは、脚本力。作家なのだから当たり前と思うかもしれないが、コーエン兄弟が製作総指揮に名を連ねる決め手ともなったというシーズン1の脚本の巧みさは、もうあっぱれとしか言いようがない。序盤は視聴者が映画の内容との違いを意識したとしても、気がつくとはるか遠いところに旅をして来たぞ、といった不思議な感覚に襲われる。そして観終わってみれば、圧倒的にホーリーの作品でしかないと思わせるものがある。これは私にとって、実に新鮮で興味深い体験だった。

シリーズ化してからも奇想天外な犯罪ドラマは、何もかもがぶっ飛んでいた。シーズン2以降は『ファーゴ』に縛られず、コーエン兄弟の作品群、もしくはコーエン兄弟の作風をテーマとしたアンソロジーシリーズとして他に類を見ない道を歩み始めた時には、こんなドラマには、そうそうお目にかかれるものではないと思ったものだ。時代設定はシーズン1は2006年、シーズン2は1979年、シーズン3は2010年、シーズン4は1950年とかなり遡る。中西部のミネソタ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州の州境付近、カンザス州とミズーリ州にまたがるカンザスシティが共通する舞台となる。物語の関連性はシーズン1&2は割とある方だと思うが、各シーズンのつながりはそこまでダイレクトではないので、仮にわからなくてもさほど問題はないと思う。各シーズンのキャストも豪華な顔ぶれ。マーティン・フリーマン、キルスティン・ダンスト、ユアン・マクレガーなど、「映画俳優がTVドラマに出演」などといった区別がもはやなくなったのだということがよくわかる。
このようなユニークで贅沢な作品が可能にしたのは、アメリカのTV業界の質の全体的な底上げによるピークTVと呼ばれる黄金時代が背景としてある。00年代からアメリカのTV業界全体の質が急速に向上し、映画業界のビッグネームがテレビに本格参入することも全く珍しくなくなった。00年代になるとケーブル局に加えて動画配信サービスがオリジナル作品を手がけるようになり、質も量も過去最高の黄金時代の到来である。この流れを牽引したのは『ゲーム・オブ・スローンズ』などで知られるHBOだが、一方でエッジの効いた革新的な番組を次々と生み出し、頭角を現していたのがベーシックケーブル局のFX。00年代に同局の『ザ・シールド』や『ダメージ』でグレン・クローズほか大物映画俳優が主演&レギュラー出演したことは、当時としては大いに話題を集めた。またライアン・マーフィーを一躍トップクリエイターに押し上げたのもFXである。HBOとはまた別の角度からピークTVの一端を担っていた同局が、マーフィーに続いて業界の注目を集めたのが『FARGO/ファーゴ』とホーリーだった。そして次にホーリーがFXで手掛けたのが、マーベル・コミックスの異色のアメコミドラマ『レギオン』(2017~2019)である。

『レギオン』で映像と音楽、プロダクションデザインから編集まで、あらゆるものが画期的と言える独自のワールドを見せつけたホーリー。『FARGO/ファーゴ』と『レギオン』が業界全体に与えた影響は、ホーリー以前と以後として語れるのではないかと個人的には思っている。その『レギオン』が完結し、約3年ぶりに『FARGO/ファーゴ』に戻って手掛けたのがシーズン4である。
過去3作とはかなり異なるムードの序盤からして、ぐぐっと物語に引き込まれる。1920年代から続くユダヤ系、アイルランド系、イタリア系、そして1950年代になると黒人のマフィアが対立する街の架空の歴史をたどりながら、敵対する犯罪組織のボスの子供を交換して人質として育てるという、奇妙な慣習とその顛末を淡々と映し出す。この世の理不尽さが凝縮されたような人質となった子供たちの命運には、残酷さとブラックユーモアが漂う。トレードマークの雪景色は序盤は登場しないが、そもそも犯罪組織は本シリーズにおいては常にベースにあった。そういう意味では1950年と時代設定も一番古いし、シリーズの原点と言えるのかもしれない。あるいはコーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』(1990)や『シリアスマン』(2009)を思い浮かべる人もいるだろう。そうしたもろもろを含めてファンの期待以上に、ホーリー自身が監督をつとめた第1話&第2話はキレッキレ!冒頭から「これぞファーゴ”!」と思わせてくれる楽しさに満ちている。

シーズン4の主任撮影監督は本作のシーズン1からタッグを組み、『レギオン』も手掛けているダナ・ゴンザレス。のっけから息をのむほど美しく計算し尽くされた映像に、ホーリー作品の常連で欠かすことのできないジェフ・ルッソが手掛ける楽曲の素晴らしさは、シーズン4でも冴え渡る。特に黒人マフィアのボス、ロイ・キャノン(クリス・ロック)と、イタリア系のドナテロ・ファッダ(トマソ・ラーニョ)が出会うシーンで、「Open(Meet The Family)」と題されたルッソ版「キャラヴァン」が流れるシークエンスの見事さといったらない(サウンドトラックも要チェック)。全体として分割画面を多用した編集のリズムとの調和や、プロダクションデザイナーのウォーレン・アラン・ヤング、コスチュームデザイナーのJ・R・ホーベーカーの仕事ぶりもほれぼれする。
緻密に作り込まれた世界観の中で、シリーズ中過去最大規模だという主な登場人物を演じる俳優陣が、アクの強いキャラクターを嬉々として演じるさまは無条件に楽しい。先のロックに加えて、ベン・ウィショーの諦念がにじむ哀しげな瞳、滑稽なジェイソン・シュワルツマン、クレイジーなガエターノ・ブルーノ。代表作『JUSTIFIED』の役を思わせる連邦保安官に扮するティモシー・オリファントの乾いたユーモア、ジェシー・バックリーが演じる看護師オラエッタは、本作においても屈指の最恐キャラと言えるかもしれない。

シーズン4では人種問題や移民といった題材をこれまで以上に中心に据えている。それはとても今日的ではあるのだが、『FARGO/ファーゴ』の醍醐味は、ある種の様式美にあるのだと思う。おなじみのテーマ曲にスタイリッシュな映像美。血みどろのバイオレンスとブラックユーモア。不運と偶然が雪だるま式に膨れ上がって、あらぬ方向へと転がっていく物語。演技派俳優によって作り込まれたキャラクターたちの名演。ホーリーが作り上げたこの珠玉の映像世界を、まずは無心で楽しみたい。そしてあれやこれやの深読みは、ぜひ2度目鑑賞で。
【初回7日間無料】『FARGO/ファーゴ:カンザスシティ』を今すぐ観る!>
参考:https://www.hollywoodreporter.com/live-feed/fxs-fargo-cast-eps-film-671050

写真上から2枚目および3枚目「FARGO/ファーゴ3 ©  2017 MGM Television Entertainment Inc. and Bluebush Productions, LLC. All Rights Reserved.」、そのほか全て「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. FARGO (Year 4) © 2020 MGM Television Entertainment Inc. and FX Productions,(c) 2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.」
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