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青春音楽映画のカルト的名作が日本初公開!お蔵入りの寸前で“女性たち”が勝ち取ったラスト・シーンは必見!(文/粉川しの) original image 16x9

青春音楽映画のカルト的名作が日本初公開!お蔵入りの寸前で“女性たち”が勝ち取ったラスト・シーンは必見!(文/粉川しの)

解説記事

2024.07.11

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当時17歳だったダイアン・レインが、パンクロッカー風のメイクと衣装で、大人社会に反抗する主人公を鮮烈な個性で演じた、日本未公開&ソフト未発売&本邦初放送の激レア作品『ダイアン・レイン 反逆のロックアイドル』!セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ(G)とポール・クック(Dr)、ザ・クラッシュのポール・シムノン(B)がメンバー役で出演するなど、音楽ファンも興奮すること間違いなしの本作を、音楽ライター/ジャーナリストの粉川しのさんに解説していただきました。

 『ダイアン・レイン 反逆のロック・アイドル』は、まさに幻の作品と言っていいだろう。1982年にアメリカで公開された同作は日本では未公開に終わり、これまでソフトも発売されていない。スターチャンネルでの本放送が文字通り日本初公開となる貴重な一作なのだ。
 ダイアン・レインが『アウトサイダー』(1983)や『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)で日本でもアイドル的人気を博する直前、彼女が17歳の時の出演作である『ダイアン・レイン 反逆のロック・アイドル(原題:Ladies and Gentlemen, The Fabulous Stains)』は82年当時、本国でもほとんど話題にならずにひっそりと公開を終えている。しかし、その後ケーブル・テレビで度々放送されたことで、徐々に人気を獲得。『あの頃ペニー・レインと』(2000)などと並ぶ青春音楽映画として、また、『スパイナル・タップ』(1984)のようなバンド映画とも並んで、カルト的名作と位置付けられるに至っている。
 80年代初頭のパンク、ニューウェイヴのリアルな描写に加え、フェミニズムのメッセージ性も色濃く反映された本作は、後世の女性ミュージシャンに大きな影響を与えたことでも知られている。特にライオット・ガール(※90年代に米ワシントンを中心に広まった、ラディカルなフェミニズムと政治性を内包した女性アーティスト達によるパンク・ムーヴメント)のバンド、例えばビキニ・キルやブラットモービルはかつて本作のファンであることを公言していた。
 本作のあらすじはいたってシンプルだ。主人公は、母親を病気で亡くした17歳の少女コリン・バーンズ(ダイアン・レイン)。家族を養うために働いていたファーストフード店で、彼女は地元テレビ局の取材を受ける最中に暴言を吐き、解雇されてしまう。しかし、衰退する地元の街への苛立ちをぶちまける彼女を観た10代の視聴者は、コリンに共感。地元のちょっとした有名人になった彼女は妹のトレイシー、従姉妹のジェシカと共にパンク・バンド「ザ・ステインズ」を結成する。ザ・ステインズはメタル・バンド「メタル・コープス」と、UK出身のパンク・バンド「ルーターズ」のツアーに帯同、彼らのサポートとしてステージに立つチャンスを得る。楽器も歌もずぶの素人であるコリン達の初ステージは散々な結果に終わるが、誰にも媚びず、「男に嘲笑されても自分を捨てるな」と啖呵を切るコリンはまたもメディアの注目を集め、ザ・ステインズは若い女子を中心に熱狂的なファンベースを獲得していくことに。そんなコリン達の成功と挫折を描いた本作は、王道のバンド物語と言っていいだろう。
 本作の監督ルー・アドラーは、キャロル・キングやママス&パパスとの仕事で知られる著名な音楽プロデューサーでもあり、彼が手がけたキングの『つづれおり』(1971)はグラミー賞に輝いている。脚本は『スラップ・ショット』(1977)や、ジェーン・フォンダ主演の『帰郷』(1978)の原作でも知られるナンシー・ダウド。なお、ダウドに協力するかたちで脚本に参加しているのがキャロライン・クーンだ。クーンは70年代のUKパンク・シーンについて、ジェンダーやセクシュアリティの鋭い観点から多数執筆してきたジャーナリスト。本作におけるフィーメール・パンクのリアリティは、彼女の助言なくしては描ききれなかったものであるはずだ。
 そんな制作陣のみならず、出演者もまたバンド映画である本作のリアリティに寄与する「本物」が揃っている。セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ(G)とポール・クック(Dr)、ザ・クラッシュのポール・シムノン(B)が、ルーターズのメンバー役で出演、UKの二大パンク・バンドの夢のジョイントが実現している。中でもシムノンにはセリフも見せ場もあり、彼のカリスマティックな佇まいは流石だ。一方、ルーターズと敵対関係にあるメタル・コープスのシンガーとギタリストを演じたフィー・ウェイビル、ヴィンス・ウェルニックは、共に70年代の米西海岸で活躍したグラム・バンド、ザ・チューブスのメンバーだ。なお、劇中でメイン・フィーチャーされる楽曲「Join the Professionals」は、ピストルズの解散後にジョーンズとクックが結成したバンド、ザ・プロフェッショナルズの実際のナンバーでもある。
 この『ダイアン・レイン 反逆のロック・アイドル』が、当時のカウンター・カルチャー/ユース・カルチャーを熟知した制作陣と、本物のアーティスト達が多数参加したことで説得力を増した、鮮烈な青春の物語であるのは間違いない。同時に、ポップ・ミュージックのファンとしては、当時の音楽シーンの胎動がダイレクトに伝わってくる、ドキュメンタリー的な面白さも見逃せない点だろう。例えば、劇中で初のUSツアーに奮闘するルーターズの姿は、『サンディニスタ!』(1980)を引っ提げてアメリカ進出を目指したザ・クラッシュを彷彿とさせ、革ジャン&ソフトなリーゼントのボーカリスト、ビリーはジョー・ストラマーを連想せずにはいられないキャラクターだ。
 一方、キッスさながらのメイクや厚底ブーツで派手に着飾ったメタル・コープスは、パンクの勃興の裏で時代遅れになったグラム・ロックやハード・ロックを象徴している。また、ルーターズ達のプロモーターである「ローンボーイ」は、ボブ・マーリーさながらのレゲエ・アーティストとして登場する。レゲエがパンクにも多大な影響を与え、2トーンやスカ・ブームを生み出していった。物語の後半で、MTV(に該当する放送局)が描かれるのも見逃せないポイントだろう。80年代はMTVを通じてロックが急速に商業化していった時代であり、それはパンク・ロックの精神を衰退させるきっかけともなった。
 もちろん、主人公のコリンとザ・ステインズの造形にもパンク、ニューウェイヴ期の様々なバンドやアーティストからの参照が見て取れる。サイドを剃り上げてツートーンに染め分けたコリンのヘアスタイルや、どぎついアイメイク、シースルーのシャツやビキニパンツ、ボンテージ風のボディ・スーツといったファッションは、デボラ・ハリーやニナ・ハーゲン、ジョーン・ジェットを筆頭とする、当時の女性ロック・アイコンをトレースしたものだろう。ザ・ステインズの佇まいもまた、スリッツやゴーゴーズといった元祖女性パンク・バンドを彷彿とさせる。
 そんなザ・ステインズのスタイルは、2024年の今見ても恐ろしくクールだ。何故ならそれは単なるファッションではなく、女性の解放と自立というフェミニズム思想の体現であり、いかに自分らしく生きるべきかのプレゼンテーションでもあるからだろう。ちなみに昨年頃から「見せる下着」がトレンド化し、アンダーウェアのまま街を闊歩する海外のセレブリティが注目されているが、コリンのビキニパンツは、そのトレンドを何十年も前に先取りしたものだったりもする。
 なお、本作のラスト・シーンを巡って、監督のアドラーと脚本のダウド(とクーン)は意見を激しく対立させたと言われている。ダウド達はザ・ステインズが女性ファンの支持を得て大ブレイクするという、サクセス・ストーリーとして終わらせたかったが、アドラーは彼女達のエンディング案を拒絶。男性監督が女性脚本家に書き直しを執拗に迫るという、本作のテーマを思えばなんとも皮肉な事態に陥った。一時はお蔵入りの寸前までいったものの、最終的にはアドラーが折れたという。本作に関わった女性達がようやく勝ち取ったそのラスト・シーンを、ぜひあなたの目で確かめてみてほしい。
ダイアン・レイン 反逆のロック・アイドル
【放送】
<字幕版>7/18(木)深夜 12:00 ほか
※配信はありません

《関連》ダイアン・レイン出演作品
フュード/確執 カポーティ vs スワンたち

【放送】
<字幕版>7/15(祝・月)より毎週月曜よる11:00~ 1話ずつ放送
【配信】
<字幕版>7/14(日)第1話先行配信
7/23(火)より毎週火曜1話ずつ配信(第2話~第5話)
8/22(木)より毎週木曜1話ずつ配信(第6話~第8話)

ボンジュール、アン
【放送】
<字幕版>8/3(土)あさ 7:40
<吹替版>8/22(木)夕方 5:50
<著者プロフィール>
粉川しの(音楽&映画ライター)

(株)ロッキング・オンで『ロッキング・オン』、『CUT』、『BUZZ』の編集を手掛け、『ロッキング・オン』初の女性編集長に就任。現在はフリーのライター&編集者として活動、コメンテーター等も務めている。
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