『環状線の猫のように1&2』野村雅夫氏 解説｜動画文字起こし

ローマのインテリ富裕層と、治安の悪い郊外に住む貧困層。子供同士の交際をきっかけに、交わるはずのない人生が交わって、事あるごとに火花を散らす親同士。それが恋の花火へと発展!? 格差社会&異文化共生ラブコメディ『環状線の猫のように1&2』の解説動画をお届け。

どうも、野村雅夫です。現代イタリア映画きってのコメディエンヌ、パオラ・コルテッレージ主演作を5本お届けする特集「ゴー！ゴー！パオラ！イタリア娯楽映画の進行形」。今回紹介する作品はこちら！

我らがパオラとその伴侶であるリッカルド・ミラーニ監督による2本。テーマは格差と異文化共生です。欧州議会のシンクタンクで都市郊外の貧困対策に取り組むインテリ富裕層のジョバンニ。海外出張から戻ったある日、13歳になる愛娘にボーイフレンドが出来たと打ち明けられます。その相手というのが、ローマ郊外の治安の悪い地区と名高いバストージに住んでいる。

不安になったジョバンニ、よせばいいのに車で二人を尾行するんです。慣れない場所です。二人が気になってしょうがない。ノロノロノロノロ運転していると、そこにイチャモンをつけてくるのがそのボーイフレンドのお母さん、我らがパオラ演じるモニカなんですよ。

子供たちが付き合わなければ、まず知り合わなかっただろうこのふたり。大方の予想通り、しょっちゅう火花を散らしながら、あれ？でも親同士の恋の花火に発展するのか？なんていうジェットコースターコメディの幕開けになろうとは、この時点での二人には知る由もありません。そのバストージには安い住宅を求めて移民たちもたくさんやって来ています。

まさに人種の坩堝と化しているんですね。つまりそこは格差の問題と異文化共生の問題の最前線。だからこそ、ジョバンニみたいなシンクタンクの人間が社会課題の解決に向けて動いているんですが、ただそのジョバンニにしたって、データを見ながらの机上の空論ばっかりなんですよ。

さもわかったようなふりをしているんですが、現場に来てみると全然違うと。もう大変ですよ。いちいち驚いてびっくりするし、腹も立てるし。その辺が僕たち観客には見ていて楽しいんですね。対立や違いを描くにあたり、どちらかが見下したりこき下ろしたりするということは全くないので、どんな人も楽しめるし、どんな階層の人にも笑えるポイントがあるんですね。

観客も胸に手を当てて、これからの未来を描いていこうって思える。僕はその意味で、これ、気高い娯楽作だと思います。舞台はローマの中心と郊外のバストージだけではありません。海水浴場も出てきます。興味深いのは、ここにも格差の違いがあること。

モニカのようなバストージの人たちが行くビーチは強烈ですよ。パンチ効いてます。「２」の副題に「バック・トゥ・ザ・ビーチ」とあるのは、そこに「１」のキャラと「２」の新キャラが集合するからなんですね。パオラの活躍は言うまでもありません。今回の特集5本の中でも、この「１＆２」の2本は一番インパクトがあります。

その物怖じしない表情、堂々とした立ち居振る舞い、そしていちいち派手な衣装にご注目を！格差が進み、深刻化しているのは日本も同様ですね。外国にルーツを持つ方もどんどんと増えてきていて、異文化共生も喫緊の課題です。笑いながら、そしてジーンときながら、僕たちもこれからの自分たちのコミュニティのあり方について考えたいものですね。

この作品、そして僕たち京都ドーナッツクラブが選んだ他の作品も、ぜひスターチャンネルでご覧ください。