『ベテラン』(2015) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説②(文/岡本敦史)
おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。
目次
悪逆非道な財閥ボンボンを庶民派刑事がぶちのめす!ナッツ・リターン事件翌年のタイムリーな痛快アクション
2000年代以降の韓国アクション映画ジャンルを牽引してきた、リュ・スンワン監督とチョン・ドゥホン武術監督。彼らが最も脂の乗りきった時期に撮り上げた快作が、この『ベテラン』である。主演のファン・ジョンミンとは、司法制度の腐敗を描いた問題作『生き残るための3つの取引』(2010)でも組んでいるが、あちらがダークでツイストの効いた刑事ノワールとすれば、『ベテラン』はその対極にあるド直球の痛快刑事アクションである。しかし、現代韓国社会の恥部を暴く姿勢は共通している。
ファン・ジョンミンが演じるのは、ソウル警察広域捜査班のベテラン刑事ドチョル。汚いカネよりも正義を信じ、仲間からの信頼も厚い武闘派だ。あるとき、彼はパーティーで自分と最も遠い世界で暮らす男と出会う。大財閥の御曹司として生まれ、その権力を隠れ蓑に悪徳の限りを尽くす若き実業家チョ・テオ(ユ・アイン)だ。庶民の苦しみを何ひとつ知らない男が一線を越えたとき、ドチョルの闘争心に火が点いた!
本作公開の前年には「ナッツ・リターン事件」が起き、金持ちのワガママに全国民が呆れるとともに大企業の同族経営に批判が集まるきっかけとなった。ゆえに韓国国民にとって『ベテラン』の物語はまさにタイムリーな題材だった。特権階級にあぐらをかき、司法の追及も狡猾にかわす悪逆非道なボンボンを、庶民派刑事が徹底的にぶちのめす!という筋立てに、多くの観客が喝采を送り、溜飲を下げた。大衆の目を現実から背けさせるためのガス抜きという批判もあったが、それでも作品に込められた「罪を罪とも思わない、人を人とも思わない」高慢な富裕層への怒りは本物である。
もちろん、正義と悪が対決する明朗娯楽活劇として見ても、本作はすこぶる面白い。リュ・スンワン監督の血の通った人物描写、地に足の着いた庶民目線、そしてクライマックスに向けてスリルとアクションを巧みに盛り上げていく演出手腕は、もはや名人芸の域。海外ロケの大作『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)でも、その持ち味を大いに発揮していたのは記憶に新しい。武術監督チョン・ドゥホンの仕事も、舞台と小道具を活かしたアイデア満載の場面設計、MMAなど多彩な要素を取り入れた格闘シーンの迫力、壮絶なクラッシュに目を見張るカースタントなど、まさに集大成といえる仕上がり。座長をつとめたファン・ジョンミンをはじめ、芸達者揃いのキャストが集ったアンサンブルドラマとしても見応え満点だ。いまや『楽園の夜』(2019)などの主演作もある人気の個性派俳優オム・テグが、本作ですでに儲け役を任されているところにも注目である。
Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
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