マカロニ・ウエスタンは逆襲する――親兄弟を殺され、恋人を犯され、悪人に撃たれ、拷問され、傷ついた主人公が立ち上がり、最後に敵をなぎ倒す。それがマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)の神髄だ。御本家ハリウッド西部劇でも同じような話はいっぱいあるが、どれも肝心の部分はボカされゴマかされセリフで処理されていた。もちろん子供の教育のためだ(映画業界には性や暴力描写にはキリスト教に則った規制が設けられていた)。
実はヨーロッパでは、マカロニ・ウエスタン誕生前から西部劇が作られていた。1960年代初めにはイギリスやドイツの映画人がスペインや旧ユーゴスラヴィアで西部劇を作っていて、イタリア人より早かった。が、黒澤明監督・三船敏郎主演の日本映画『用心棒』[1961]を下敷きにして、セルジオ・レオーネがクリント・イーストウッドを主演にスペインで撮った西部劇『荒野の用心棒』[1964]が大ヒットし、イタリア映画人中心のマカロニ・ウエスタンがヨーロッパ製西部劇の主流になる。
『荒野の用心棒』で、拷問され血だらけボロボロになったイーストウッドがしぶとく復活し、逆転サヨナラの逆襲劇を完成させるクライマックスは大喝采。ダイナマイトが爆発する派手なレオーネ演出、トランペットが鳴り響く決闘音楽(エンニオ・モリコーネ)も最高だった。『用心棒』も『荒野の用心棒』も、主人公はどこからともなくやって来る流れ者、敵のラスボスは自信満々の腕自慢。「三船敏郎=刀」VS「仲代達矢=銃」だった日本版に対して、マカロニは「イーストウッド=銃」VS「ジャン=マリア・ヴォロンテ=ライフル」と、いずれも武器力では劣っているはずの主人公が、知恵と度胸で難敵を倒す。これがマカロニ・ウエスタンの基本となった。
イタリアならではの衣装や革製品など小道具の美しさも、忘れてはならない(以前のビデオソフトなどに比べて、昨今のデジタルリマスター版を大画面で見ると最高に楽しめる)。マカロニは「粋(イキ)」だったのだ。派手な色のヒゲが特徴のペンギンが「マカロニペンギン」と名付けられたように、本来「マカロニ」には「キザで粋」の意味がある。日本でイタリア製西部劇を「マカロニ・ウエスタン」と呼ぶようになったのも偶然にしても、なかなか感慨深い。マカロニ・トリビアとしては有名すぎるネタが、「マカロニ・ウエスタン」は日本だけの呼び方で、欧米では「スパゲティ・ウエスタン」がある。いずれもチープなイタリア飯のような西部劇としてバカにした呼称だったのだが、その後は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』[1999]を経て、クリント・イーストウッドやマカロニ・ファンのクエンティン・タランティーノがアカデミー賞を受賞、すっかりハリウッドも認める存在となり、マカロニ・ウエスタンは世界の西部劇の主流となった。