真相を明らかにする唯一の道とは?『JFK/新証言 知られざる陰謀【完全版】』解説(文/瀬戸川宗太)
世界を震撼させた第35代アメリカ大統領 ジョン・F・ケネディ暗殺事件から60年となる昨年11月に公開され物議を醸した【劇場版】に、本邦初公開となる新たな機密解除文書や新証言を追加した約60分×4話のTVシリーズ【完全版】が、いよいよスターチャンネルで4月より独占放送・独占配信!今回は、映画評論家でありケネディ暗殺事件についても造詣が深い瀬戸川宗太さんに、アメリカの現在の政治状況を交えて解説いただきました。
Photo: Camelot Productions, Inc.
本作は、昨年11月に公開された【劇場版】の基になったテレビシリーズだが、一回60分の番組を四回に分けた全編240分の長尺版である。オリバー・ストーン監督は、テレビ放映時の内容があまりに専門的過ぎると判断し、一般観客にも理解できるよう約120分の短縮版を劇場公開したわけだが、むしろこちらの長尺版の方がはるかに分かり易い。
ケネディ暗殺から60年経っても、未だに真相が解明されてないように、同事件は謎が多く、複雑に入り組んでいるので、概略を紹介するだけでも相当な知識量が必要とされる。そのため、同種のドキュメンタリーを難しいと感じるのは、ある程度やむを得ないと見るべきだろう。
今回の【完全版】が、ケネディ暗殺事件を知らない人にも比較的分かり易いのは、導入部で1963年11月22日の出来事を映像化しているだけでなく、ジャック・ルビーが大統領暗殺の容疑者リー・ハーベイ・オズワルドを、ダラス警察署の地下出口で殺す場面をまず見せ、その不可解さから作品をスタートさせたからではないか。オズワルド殺害を筆頭とする事件にまつわる様々な疑惑をはらすために、ウォーレン委員会が作られた経緯をきちんと振り返っているのもいい。謎に包まれた世紀の大事件だからこそ、解明されねばならないという制作側のメッセージが明確である。
さらにはメディアの問題を大きく取り上げ、CBSテレビへの権力側による圧力やニューヨーク・タイムズが、当初から「陰謀なしの単独犯説」を主張していたことを本シリーズ第一回から暴露しているのは、同事件の今日性を考える上でも大切な意味を持つ。
なぜなら、現在60年前の大統領暗殺事件を彷彿とさせる政治的陰謀が、メディアを巧みに操るよく似た構図の下で進行しているからだ。今年11月に行われるアメリカ大統領選挙に立候補しているトランプ元大統領と暗殺されたジョン・F・ケネディの甥ロバート・ケネディ・ジュニアに対し、民主党バイデン政権や民主党系大手マスコミが猛烈な批判を繰り返している現況を直視すべきである。中でもトランプ元大統領に対する司法機関を使った攻撃(アメリカでは司法の武器化という)は、明らかな選挙妨害であり、異常というしかない。そのような実態を踏まえると、本シリーズが提起している疑惑の数々は、今日のアメリカ政治の混迷の謎を解く重要な鍵といえよう。
もう一つ、今回の【完全版】が【劇場版】より優れているのは、ケネディ大統領がどのような政治スタンスをとっていたか、また当時同政権が直面していた数多くの難題、西ベルリンをめぐる東西の対立、カストロ革命、米ソが核戦争一歩手前までいったキューバミサイル危機、ベトナムへの軍事介入問題等について、詳細に映像化している点である。つまり、1950年代末~60年代初頭の国内外情勢を総合的に理解しなければ、ダラスでの悲劇の真相解明は難しい。【劇場版】では、肝心の詳しい情勢認識を削除してしまったせいで、作品の持つ良さが観る側にうまく伝わらなかった。
ストーン監督としては、複雑な内容をコンパクトにまとめ、分かり易くしたつもりだったが、かえって難しくしてしまったように感じる。前述した以外も例えば、大統領が狙撃された直後、オズワルドがテキサス教科書ビルの二階にいた問題をのっけから詳しく説明するくだり。当時4階にいた女性勤務員たちの話は、オズワルドが大統領の撃たれた時間に、狙撃が行われた6階にはいなかったというアリバイを証明する重要な新証言なのである。だが、オズワルドの教科書ビル内での動向や、事件発生直後、ビル内に踏み込んできた警察官とのやり取りの詳しい状況説明を省略しているため、新証言の真意が分からず、なぜ彼女達の行動に執拗にこだわるのかが不思議に感じられてしまう。
同じく、「魔法の弾丸説」やケネディ大統領の首にあった銃創や脳の状態について、詳細な説明をなぜ延々と描くのか、いぶかしく感じられたのではないか。が、【完全版】を観れば、以上のこだわりについて納得がいく。当時のジョンソン政権やFBIがいかに事実を隠ぺいしようとしていたかが垣間見えて来るからだ。描かれた理不尽な捜査過程は、現在のトランプ元大統領に対するFBIの手口と見事に重なってくる。
私は、ケネディ暗殺の謎に迫る【完全版】の描写を高く評価する一方、当時アメリカを敵視していた外国勢力=キューバやソ連等共産国の暗殺関与について、全く言及していないのがなんとも歯がゆかった。それでも、ダラス以前に起きたシカゴとタンパ(フロリダ州)での大統領暗殺未遂事件にふれ、その中でカストロ支持派組織のライフル銃狙撃手ロペスの存在に言及している場面には、大いに賛意を表したい。その件をもう少し掘り下げれば、キューバ・ソ連の諜報機関がアメリカ国内で暗躍していた事実を、当然取り上げざるを得なかったからである。
ジョン・F・ケネディを敵視していた国内外全勢力の動向に光を当てる立場こそ、真相を明らかにする唯一の道と言わねばならない。
Photo: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives
<著者プロフィール>
瀬戸川宗太(せとがわ そうた)
1952年、東京都生まれ、上智大学法学部卒業後、中学・高校の教員、立教大学法学部客員研究員(ケネディ政権とキューバ危機の研究)を経て、映画評論家となる。社会派・サスペンス映画に詳しい。現在、「夕刊フジ」「正論」「Hanada」「Voice」等の新聞、雑誌に映画評論を寄稿。著書に『世界を予言した映画80本』(産経NF文庫)『世界の戦争映画100年』(光人社NF文庫)『「JFK」悪夢の真実』(社会思想社)『懐かしのテレビ黄金時代』『思い出のアメリカテレビ映画』(ともに平凡社新書)などがある。
https://www.wani.co.jp/sp/event.php?id=8041
JFK/新証言 知られざる陰謀【完全版】
ドラマ公式ページ:
https://www.star-ch.jp/drama/jfk-shinshogen/1
<放送> 4/18(木)より毎週木曜よる11:00 ほか ※4/14(日)13:00より 字幕版 第1話 無料放送
<配信> 4/18(木)より毎週木曜1話ずつ更新 >> 視聴ページはこちら
世界を震撼させた暗殺事件から60年…。巨匠オリヴァー・ストーンが『JFK』(1991)で綿密な調査に基づく独自の視点から描いた陰謀のストーリーは、そのセンセーショナルな内容から世界中で大ヒットを記録した。本作では映画の公開後、新たに解禁された何百万ページにおよぶ機密解除文書の中から“真実”と思われる重要な発見を白日の下に晒し、主要メディアが無視し続けてきた陰謀の真相をあぶり出す。長期間に渡る調査と、事件の目撃者をはじめとする関係者のインタビューの中から浮かび上がる“新たな証拠”=「新証言」を深く掘り下げ丁寧に紐解きながら、この暗殺事件がいまだ現代にも大きな影響を与え続けている歴史的な大事件であったことを、今を生きる私たちに改めて知らしめることになる衝撃のドキュメンタリー。【完全版】は全4話構成となっており、約120分の映画として公開された【劇場版】をさらに丁寧に再構築した究極のバージョンとなっている。これが巨匠オリヴァー・ストーンの最終解答だ!(全4話)
Photo: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives
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(著者:瀬戸川宗太/発行元:ワニブックス)
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