火山版ジュラシック・パーク!?『ボルケーノ・パーク』(文/村山章)
世界で深刻な火山の被害が出ている昨今。不謹慎かもしれないが、忘れないでほしい、火山パニック映画をモンスター映画として撮った、サイモン・ウェスト監督の職人技を!
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国際色豊かなチームが集結したパニック超大作
冒頭からの大風呂敷に思わず顔がほころぶ。そんなディザスタームービーが『ボルケーノ・パーク』(19)だ。基本的に中国資本の中国映画ながら、スタッフは17カ国から集まり、監督にはハリウッドから『コン・エアー』(97)のサイモン・ウェストを招聘するなど、国際色豊かなパニック超大作である。
内容は読んで字のごとく、東南アジアの美しい島で火山=ボルケーノが大噴火を起こす。島は活火山のスリルが楽しめるテーマパークになっていて、当然ながら火山が噴火するわけがないと高をくくっていた観光客たちに大自然の鉄槌が下されることになる。『ジュラシック・パーク』(93)の火山版を想像してもらえれば、この映画の概略はだいたい把握してもらえると思う。
大風呂敷、と書いたのは、オープニングからとんでもないスケール感で飛ばしまくってくれるから。舞台となる火山島を紹介するCG映像で始まるのだが、初っ端は広大な宇宙空間。地球という惑星の誕生にまでさかのぼり、煮え立つマグマの塊に地殻が形成され、氷河期などを経て火山が緑豊かな島になっていく壮大な歴史を1分40秒ほどで描き切ってくれるのだ。オープニングだけを取り出せば、海外のネイチャードキュメンタリーか、巨匠監督テレンス・マリックの壮大な生命讃歌『ツリー・オブ・ライフ』(11)だと勘違いする人がいても不思議はない。
有無を言わせぬスピード感で押し切る94分間!
そして時代が現代までたどり着くと、『孫文の義士団』(09)のワン・シュエチー扮する火山学者のタオと、同じく火山学者の妻が「天火島」という非常に物騒な名前の島で研究をしている。こんな島に火山学者がいて、映画の世界で噴火しないわけがない。案の定、シーンが始まってわずか1分で天火島は大噴火! 島は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、タオの妻は灼熱の火山灰に包まれて亡くなってしまうのだ……。
そして20年が経ち、天火島は世界初の火山テーマパークとなり、成長したタオの娘シャオモンは火山学者になって島で研究を続けているのだが、もうDAY1で20年ぶりの大噴火が発生。リゾート客は逃げ惑い、娘を案じて島に戻ってきたタオとシャオモンは協力して島民を救う決死のミッションに挑むことになる。と、ここまで書いて気がついたのだが、この映画って20年の歳月を挟んで、ひとつの島で噴火が起きるたった二日間しか描いてないんですよ。なんという割り切りのよさ、なんという潔さ!
この有無を言わせぬスピード感が本作のあるべき姿を決定づけている。サイモン・ウェスト監督は、94分の上映時間にスペクタクルな見せ場を大量にぶっ込み、合間では疎遠になっていたタオとシャオモンの親子が和解したり、島のヤングカップルが婚約して絆を深めたり、将棋の駒をビシッと打つような小気味よさで人間ドラマも差し込んでくる。パニックの裏に人情噺の群像劇あり。まさにジャンル映画の鑑である。
アクション畑の職人監督が初めてディザスター映画に挑戦
サイモン・ウェストといえばニコラス・ケイジ主演の『コン・エアー』でデビュー以来、アクション畑を主戦場に活躍してきた。『トゥームレイダー』(01)ではアンジェリーナ・ジョリーをアクションスターにし、ジェイソン・ステイサムの信頼も厚い。スタローンからは『エクスペンダブルズ2』(12)の監督を任されたこともあるので、前述の顔ぶれに加えてシュワルツネッガー、ブルース・ウィリス、ジャン・クロード・ヴァンダム、チャック・ノリスらアクション界隈の大御所を軒並み演出したことになる。
しかし職人的な仕事に徹することもあって、映像作家として評価されている印象はあまりない。イギリス出身で、BBCでドキュメンタリーなどを手がけ、マイク・リー監督が同僚だったという意外な経歴の持ち主。その後フリーランスになってアメリカに渡り、リック・アストリーの大ヒット曲「Never Gonna Give You Up」などのミュージックビデオやCMを監督。リドリー・スコット、エイドリアン・ラインなどCMから映画監督に転身する道を切り拓いた先達を追いかけた。
興味深いのは、ウェスト自身がアクション志向だったわけでなく、アクション系の敏腕プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーに声をかけられたことで、たまたまアクション専任になったこと。ウェスト自身「アクションが仕事になっているので普段はアクション映画は観ない、気分が切り替わるコメディ映画が好き」と語っており、ディザスタームービーを代表する『タワーリング・インフェルノ』(74)や『ポセイドン・アドベンチャー』(72)にも夢中になったことがないという。
つまりウェストは、『ボルケーノ・パーク』を作るにあたってジャンル愛を炸裂させたわけではないのだ。ホームであるハリウッドを離れ、飛ぶ鳥を落とす勢いの中国映画界から本格的パニック超大作の舵取り役として呼ばれ、あくまでもプロフェッショナルとして、自分流のディザスタームービーを創り上げたのである。
活火山=モンスターが大暴れする“怪獣映画”
ではウェストは『タワーリング・インフェルノ』や『ポセイドン・アドベンチャー』ではない、どんな映画を指針として念頭に置いていたのか。そのヒントは序盤の火口の俯瞰ショットにある。すぐにでもマグマが吹き出しそうな不吉な火口の映像に、(一瞬だが)まるで東宝怪獣映画のようなBGMが鳴り響くのだ。
監督本人も「モンスター映画としてアプローチした」と明かしている。定番の「本物のモンスターは人間です」みたいなテーマ性もなくはないが、説教色を出したりはしない。本作のモンスターは火山そのもので、ひと度眠りから目を覚ますと“最強モンスター”として暴虐の限りを尽くすのである。
具体例を挙げると、火口から飛び散った溶岩は、まるで狙いすましたかのように人間相手にピンポイントで降り注ぐ。地面から高温のアシッドガスが吹き出して、これまた狙いすましたかのように人間を直撃する。いくらなんでも命中率が高すぎるだろうとツッコミを入れたくなるのは完全に監督の思う壺。劇中で起きる現象の数々には科学的裏付けがあっても、我々が目にするのは大怪獣の驚異と脅威なのだから。リゾートホテルと火口をつなぐモノレールのデザインが東宝特撮っぽいのも、怪獣映画っぽさに拍車をかけている。
ウェストは初の中国映画の現場を大いに楽しんだようで、数々の危険なアクションシーンをCGでなく実写で撮ることを主張して押し通したり、ハリウッドと違って中華圏のスターたちが監督第一で言うことを聞いてくれると喜んだりしている。『ボルケーノ・パーク』の撮影自体はマレーシアで行われ、現場での共通言語も英語だったが、公開待機中の最新作『The Legend Hunters(原題)』は完全に中国のキャスト&スタッフがメインで、中華版『トゥームレイダー』のようなアクション映画だという。
映画の中で、天火島はたちの悪いイタズラで悠久の退屈を紛らせるかのように次々と人命を奪っていく。現実世界で深刻な火山の被害が出ている中、不謹慎だと思われるのも致し方ないが、どうか“天火”という巨大怪獣が暴れているフィクションだと思って、このディザスタームービーの最新形態を楽しんでいただきたい。小気味いい手さばきの良さに、サイモン・ウェストという監督のことも改めて再評価してもらえるのではないだろうか。
Profile : 村山章
映画ライター。配信系の映画やドラマをレビューする「ShortCuts」では代表を務める。ラジオ、テレビ出演、自主配給など、映画にまつわる諸分野で活動中。
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