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【連載】#2『これで三度目』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム  original image 16x9

【連載】#2『これで三度目』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム

解説記事

2023.12.07

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世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員で、 アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんがセレクトした10本を放送・配信する特集「Gaumont セレクション」。本連載では、坂本さんご自身に、各作品のみどころを解説していただきます。本編とあわせ、ぜひお楽しみください。※『放蕩娘』は1月5日配信開始予定

 20世紀初頭、約130本の戯曲の原作者、演出家、俳優としてパリの演劇界、そして社交界に君臨する一方、旺盛な創作意欲で30本以上の映画作品を残したサッシャ・ギトリ(1860-1957)。その作品の魅力や現代性(モデルニテ)は近年さらに高く評価され、ここ日本でも特集が開催され、人気を呼んでいる。本作はそのギトリの後期を飾る一本であり、ギトリ自身が重要な役で出演する最後の作品となる。またブールヴァール劇で公演した自分の戯曲を映画化することが多かったギトリのフィルモグラフィーにはおのずと「姦通物」が多いのだが、本作はそのギトリ「姦通物」の締めくくりであると同時に、それらの作品をある意味パロディ化しているのが興味深い。
 タイトルにある「三度目」とはしたがって「寝取られる(コキュ)」ことである。その三度も浮気される男である宝石商のアンリ・ヴェルディエを演じるのは、シリアスからコメディまでこなし、ずんぐりとした体型と広いおでこがドレードマークで、その肖像が切手に用いられるほどの国民的人気を誇る性格俳優ベルナール・ブリエだ。アンリは二人の妻を寝取られながら、三番目の妻にその逸話を面白おかしく語ってしまうほど、どこか開き直っている。それというのもどうやらアンリ自身が浮気心を抱く、あるいは実際に浮気をすることが寝取られるきっかけとなっているからだ。まるで寝取られることで別の妻、別の人生を得られることをどこかで望んでいるかのようにさえ見える。
 そうした欲望を示すかのように、二人目の妻が不貞を働く相手はなんとアンリに瓜二つの男である。しかしながら、夫は夫、異なる誰かになることはできないまま、寝取られ続けてしまうのだが、この瓜二つの自分、あるいは分身的存在というのは、サッシャ・ギトリ作品に繰り返されてきたテーマであり、それが本作のもうひとつの物語に繋がっていく。
 もうひとつの物語、それは役者についての物語である。ギトリ演じるジャン・レヌヴァルは舞台に出演中、客席にいるアンリの三度目の妻テレーズをみそめて、誘惑する(その妻を演じるのはギトリ自身の五度目の妻、ラナ・マルコーニである)。ジャンはテレーズを誘惑しながら、役者という職業、あるいは役者という生き方について語る。役者とはつねに誰かの分身であり、自分の分身でさえあり、そこに見えていないものを見せていく存在であると。ジャンとテレーズが誰もいないナイトクラブに楽隊や客たちを召喚していくシーンは、演じること、あるいは恋することで、つかのまの間、現実を変え、世界を躍動させられることが、映画の黎明期を思わせるトリック撮影によって示されており、楽しくも感動的なシーンである。
 冒頭のギトリ作品のスタッフ・キャストの紹介にも触れておきたい。ほとんどのギトリ映画はこの紹介シーンで始まるのだが、それはギトリのそれぞれの仕事に対するリスペクトを示していると同時に、映画作りのドキュメンタリーのようでもある。まずは「作者」「主演俳優」、「演出家」の三役を務めるギトリが三度(!)車から現れ、その他のキャスト、スタッフがそれぞれ自分の選んだ乗り物で現れる。コートダジュール、モンテカルロで撮影された本作は、野外やガラス窓に囲まれたホテルのロビーのシーンなど南仏の光に満ち、ときおり鳥たちの囀りが聞こえてきて、ここでもギトリ映画のドキュメンタリー的な魅力が味わえる。
映画のアトリエ 〜フランス映画の秘宝を探して〜 Gaumont(ゴーモン) 特集
スターチャンネル放送配信記念特別企画


今回の特集を記念して、東京日仏学院にて特別ゲストによるトークショー付き上映イベントの開催が決定。ここでしか出会えない珠玉の作品を特別ゲストによるトークとともにぜひ発見ください!

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◉ 12月8日(金)
18:00 上映『放蕩娘 』 (98分)
19:40 アフタートーク (約60分) ゲスト:三浦哲哉、ゆっきゅん

◉ 12月10日(日)
15:30  上映 『これで三度目 』 (83分)
17:00  レクチャー(約60分) ゲスト:須藤健太郎
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※イベントは終了いたしました
『これで三度目』(1952)|JE L'AI ETE TROIS FOIS
監督:サッシャ・ギトリ/出演:サッシャ・ギトリ、ベルナール・ブリエ、ラナ・マルコーニほか

<作品情報>
映画監督として、劇作家として数多くの作品を発表してきたフランスを代表する作家、サッシャ・ギトリが1952年に発表したコメディ作品。これまで驚きの理由で2人の女性に浮気され、離婚を経験してきた主人公が3人目の妻の浮気こそは阻止せんと過去の経験を語ってみせる。主人公の男を演じるのはセザール賞で名誉賞も受賞した名優、ベルナール・ブリエ。ギトリ自身も、3人目の妻の浮気相手の俳優役として物語を盛り上げる。

<あらすじ>
俳優のジャンは、自身が演じた舞台の客席にいたテレーズに一目ぼれし、彼女に声をかける。2人は意気投合するが、テレーズには宝石商の夫アンリがいた。テレーズはアンリが出張でいなくなる間に自分の家で会おうと約束する。一方、これまでに2人の妻に浮気され離婚を経験したアンリは、3人目の妻であるテレーズの不倫は阻止しようと自分の留守中を友人に見張らせることに。そして過去の妻2人に起きたことを語り始め…。
特集配信:フランスの老舗映画会社「Gaumont」セレクション
世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんに全10本をセレクトしていただきました。惜しくも日本ではなかなか見られないレア作品を中心に、12月と1月の2カ月連続でお届けします。各作品は以下よりお楽しみください!

・呼吸ー友情と破壊 視聴はこちら>>
・ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋 視聴はこちら>>
・愛の犯罪者 視聴はこちら>>
・OSS 117 私を愛したカフェオーレ 視聴はこちら>>
・愛しのプリンセスが死んだワケ 視聴はこちら>>
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