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【連載】#7『愛の犯罪者』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム  original image 16x9

【連載】#7『愛の犯罪者』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム

解説記事

2024.01.12

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世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員で、 アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんがセレクトした10本を放送・配信する特集「Gaumont セレクション」。本連載では、坂本さんご自身に、各作品のみどころを解説していただきます。本編とあわせ、ぜひお楽しみください。

 暗闇に包まれた曲がりくねった山道を一組の男女を乗せた車が走っていく。多様に形を変化させていく雪の窪みや、蠢くような不気味な模様の壁に囲まれたトンネルをヘッドライトで照らしながら、車は穿たれた穴の中へ、中へと進んでいく。この見事なプロローグで幕を開ける本作の監督の名は、ジャン=マリー&アルノー・ラリユー。自国フランスではその新作がつねに期待され、世界の映画祭でも高く評価されてきた彼ら、「ラリユー兄弟」の作品は、残念ながら日本ではまだ劇場公開されていない。しかし一度でもその作品を見たことのある人は、彼らの映画の独特の魅力の虜になるはずだ。
 ではそのラリユー兄弟の映画の魅力とはどんなところにあるのか。そのひとつはフランス映画の中でも珍しいロケーションの雄大さ、そうした土地や自然が物語の背景であるだけでなく、登場人物たちと同じぐらい重要な役を担っているところではないかと思う。場所が多様な表情を見せ続け、そこに足を踏み入れた人間たちとの間で影響を及ぼし合ったり、一体化したりしていくのだ。ラリユー兄弟は、ピレネー山脈の麓、スペインとの国境沿いの町ルルドを生まれ故郷とする。そう、あのカトリックの主な巡礼地として世界的に知られる「ルルドの泉」で有名な町である。手つかずの大自然が広がり、フランスでありながら、フランスでないような場所で生まれ育ったラリユー兄弟の映画では、人と場所との間で予想もつかないような驚くべき出会いや官能的な交感が可能となる。
 さてそのラリユー兄弟がはじめて挑戦した犯罪もの、スリラーでもある本作は、生まれ故郷を離れ、アルプス山脈、スイスのレマン湖畔で撮影されている。これまでの作品では人々が自分たちの欲望に目覚めて、光溢れる場所へとおおらかに漂っていくとしたら、本作の主人公は、その欲望の裏側にある深い闇へと誘われていく。ラリユー兄弟の分身といっていいほど彼らの作品にとって重要な存在であるマチュー・アマルリック※1)が演じる大学教授のマルクは、ダンテの『地獄篇』を引用し、「人生の道の途中で、私は暗い森の中にいることに気づいた」と繰り返す。
 マルクは前述したいくつもの穴や裂け目が穿たれた雪道によって結ばれた二つの場所、山荘と大学の間を日々行き来している。雪に埋もれた屋根がまるで秘密を覆い隠しているかのような山荘と、誰もがお互いを見ていて、監視できるガラス張りのパノプティコンともいえるキャンパス(※2) 。これら建物も、自然と同様に、そのフォルムやそこに注がれる光や影の動きがまるで生きているかのように躍動的にとらえられていく。「人をもっとも特徴づけるものは、その人の過去の経験よりも、その人が生きてきた風景である」。マルクが口にする上村一夫のその言葉は本作の、そしてラリユー兄弟の映画の真髄を言い当てているだろう。
※1 本作でラリユー兄弟作品4作目の出演であるマチュー・アマルリックの起用について、監督たちは以下のように述べている「マチューはつねに奈落の底にいて、綱渡りをしているよう人だ。彼は他者と接することで自分を変え、他者に溶け込んでいく才能がある。同世代の他の俳優にはなかなかそうした存在がいない。マルクという人物は曖昧さを持ち、波のように変化していく存在であり、マチューにぴったりな役だった」。マルクが出会う「他者」たちを演じる女性陣の素晴らしさもいつか別の形で紹介したい。
※2 この大学のキャンパスはスイス連邦工科大学ローザンヌ校のキャンパス内に建設された学習施設、ロレックス・ラーニング・センターが使用されている。建築は、日本人建築家である妹島和世と西澤立衛による建築ユニット「SANAA」による。
『愛の犯罪者』(2014)|L'AMOUR EST UN CRIME PARFAIT
監督:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー/出演:マチュー・アマルリック、カリン・ヴィアール、マイウェン

<作品情報>
マチュー・アマルリック主演の官能的で謎に満ちたサスペンス。『運命のつくりかた』のアルノー&ジャン=マリー・ラリユー兄弟が監督・脚本を務め、アマルリック演じる女好きの文学部教授が、関係を持っていた教え子の失踪事件をきっかけに彼女の義母や、別の教え子、自身の妹ら3人の女性に翻弄されるさまを描く。第26回東京国際映画祭では『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』の題でコンペティション部門で上映された。

<あらすじ>
人里離れた山荘で美しい妹と暮らす文学部教授のマルクは大の女好きで、山荘に教え子を連れ込んでは関係を持っていた。そんなある日、彼が一夜をともにした女子学生のバーバラが失踪。彼女の義母だというアンナが居場所を探してマルクを訪ねてくる。美しいアンナに魅了されたマルクは恋に落ちる。その一方で、マルクは何度断っても誘ってくる教え子のアニーに困り果てていた。さらにアニーは実はマフィアの娘だったことが分かり…。

(c) 2013 Arena Productions / Gaumont / Arte France Cinema / Rhone-Alpes Cinema (France) / Vega Film (Suisse) / Entre Chien et Loup (Belgique)
特集配信:フランスの老舗映画会社「Gaumont」セレクション
世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんに全10本をセレクトしていただきました。惜しくも日本ではなかなか見られないレア作品を中心に、12月と1月の2カ月連続でお届けします。各作品は以下よりお楽しみください!

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