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『無垢なる証人』(2019) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑥(文/岡本敦史) original image 16x9

『無垢なる証人』(2019) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑥(文/岡本敦史)

解説記事

2022.08.03

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おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。

目次

Netflixの大人気ドラマシリーズ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のクリエイターが放った、その原点とでも言うべき裁判映画

第5回ロッテシナリオ公募展で大賞を獲得した、ムン・ジウォンによるオリジナル脚本の映画化。ヒューマンドラマを得意とする『ワンドゥギ』(2011)のイ・ハンが監督をつとめ、主演のチョン・ウソンに第40回青龍映画賞・主演男優賞をもたらした。

 人権派弁護士として長年活動してきたスノ(チョン・ウソン)は、現在は大企業御用達の大手弁護士事務所に就職。イメージアップを図る事務所の方針で、殺人容疑者となった家政婦の国選弁護人を担当することになる。被害者の死因は窒息死だったが、近隣住民の目撃証言によって他殺が疑われていた。その目撃者とは、自閉スペクトラム症の少女ジウ(キム・ヒャンギ)。スノは彼女を裁判に出廷させ、その判断能力に無理があることを証明しようとするが……。

 どこからどう見てもカッコいい外見なのに、魂と肉体が齟齬を起こしているような居心地悪さが滲む。中年の域に入ってからのチョン・ウソンは、そんなムードを自発的に漂わせる意欲的俳優になってきた。本作でも、生活のために信念を曲げつつある中堅弁護士を、不器用さとペーソスを滲ませながら好演。モラルを捻じ曲げてまで企業や職務に尽くすべきか、といった「生き方を問う」物語はいつの世にも現れるものだが、スノもまた2時間たっぷりかけて自分を裏切り、過ちを犯し、そのテーマを体現する。なかなか勇気のいる役柄だが、そこにも俳優チョン・ウソンのチャレンジ精神が見て取れる。

 しかし本作で最も特筆すべきは、自閉症に関する理解とリサーチのもとに描かれた少女ジウのキャラクターと、その役を担った若き演技派キム・ヒャンギの真摯な熱演だ。何より、自身を取り巻く残酷な現実の認識も含めて、ジウの自意識をきちんと描いているところに、本作の誠実さがある。ある分野に関して突出した才能を持つサヴァン症候群と、自閉症をセットで描くのはフィクションにありがちな趣向だが、それをスーパーパワーのようには決して描かない演出にも細かい配慮を感じる。

 なおかつ、ミステリーとしての面白さもしっかり備えているところに、シナリオの巧みさがある。容疑者の家政婦に扮した名バイプレイヤー、ヨム・ヘランの芸達者ぶりにも息を吞むこと請け合いだ。

 脚本のムン・ジウォンは、いまやNetflixの大人気ドラマシリーズ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022)のクリエイターとして、世界中から熱い注目を集めている。“韓国初の自閉スペクトラム症の弁護士”となったヒロインの活躍を描く物語は、本作におけるジウの設定と直結していると言っていい(第1話では本作のタイトルを登場人物に言わせるお遊びも披露)。『ウ・ヨンウ』にハマった視聴者にも、その原点として観てほしい一作だ。
Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
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