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いじめ問題に向き合った”社会派”の青春ホラー『怪怪怪怪物!』解説(文/江口洋子) original image 16x9

いじめ問題に向き合った”社会派”の青春ホラー『怪怪怪怪物!』解説(文/江口洋子)

解説記事

2023.07.21

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スターチャンネルではいまにわかに盛り上がりを見せている台湾産のホラー映画を特集配信・放送。これにあわせ、台湾映画コーディネーターであり、アジアンパラダイス主催の江口洋子さんに解説していただきました。本記事では特集作品から『怪怪怪怪物!』の魅力を紐解きます。

目次

『怪怪怪怪物!』作品情報

<ストーリー>
密告が好きな優等生のシューウェイは、ずうっと同級生たちからいじめを受けており、特にみんなが恐れている3人組からは毎日からかわれていた。ある日女性教師から、一人暮らしの老人の世話を言いつけられた3人組とシューウェイは、その老人の家で盗みを働こうとして、その途中で小さな怪物を捕まえる。彼らは好奇心にかられ毎日放課後にその怪物がどこから来たのか、特性や弱点を研究していた。しかし、彼らは青春期のちょっとしたイタズラ心が、とんでもない連続殺人事件を引き起こすことなど知る由もなかった…。

<作品情報>
監督:ギデンズ・コー/出演:トン・ユィカイ、ケント・ツァイ、ユージェニー・リウ、チェン・ペイチー、ジェームズ・ライ/製作:2017年/本編:115分/PG12/(c)2017 Star Ritz International Entertainment

ホラーでありながら見事な人間ドラマを描いた社会派映画

青春ホラーというキャッチで紹介されているが、実はいじめや正義について描かれた社会派映画とも言えるのが『怪怪怪怪物!(原題:報告老師!怪怪怪怪物!)』だ。台湾の人気作家ギデンズ(九把刀)の構想は8年、1億台湾ドル(約3億8千万円)の製作費をかけて制作した。ギデンズにとって自らメガホンをとったのはデビュー作となった青春映画の名作『あの頃、君を追いかけた(原題:那些年,我們一起追的女孩)』に続いて2作目で、はじめて原作のないオリジナル脚本だ。
2017年香港国際映画祭のクロージングを飾り、韓国のプチュン国際ファンタスティック映画祭で観客賞を、台湾の金馬奨では音響効果賞を受賞した。その他イタリア、スイス、スペイン、カナダなど各国の映画祭のコンペに出品され、日本では東京国際映画祭で上映された。『紅い服の少女』がトップヒットとなった2017年、台湾ホラーブームの盛り上がりの中、本作も興行収入で7位という成績を上げている。
ギデンズは、本作の構想は『あの頃、君を追いかけた』(2011年)の時から暖めていたと、当時筆者が台北で行ったインタビューで答えている。『あの頃、君を追いかけた』の撮影している時に、次はスマホでホラーを撮ろうと思っており、当初は4人の小学生が小さな吸血鬼を捕まえて虐待する物語だったそうだ。監督が描きたいホラーは、単に学校のいじめ問題ではなく、怪物を捕まえて虐待していくうちに少年達の心が壊れていくというものだったという。
映画の最後に、いじめを受けていた少年がいじめっ子たちになぜいじめるのか問いただした時に“だっておもしろいから”という台詞がある。監督は「マスコミの記事もまさにこれと同じで、なぜこんな記事を書くのかというと、“だってアクセス数が多いから、視聴率が良いから”と。これは同じ発想」と語った。学校という小さなコミュニティにも大きな影響を及ぼすメディアのあり方について、痛烈なメッセージを含ませている。この映画は、善とは何か、悪とは何かというひと言では言い表せることのできない複雑な哲学的な概念を、見事な人間ドラマとして成立させている。

インターネット小説出身の監督ギデンズ・コー

ギデンズは、1999年からインターネット小説を書き始め、2004年に武侠小説『少林寺第八銅人』で第1回コミック・リズ百万テレビ小説賞を受賞。ラブストーリー、ミステリー、ホラー、コメディなど様々な作品を発表し、人気作家となった。映像との関わりは、2007年のテレビドラマ『ホントの恋の*見つけかた』へのアイデア提供から。2008年、オムニバス映画『愛到底』の第1話「三聲有幸」を初監督、2011年に長編映画『あの頃、君を追いかけた』が本格デビュー作となった。本作は2作目の長編監督作品で、2021年の3作目の監督作品『月老』は大ヒットし、映画アワード台北電影賞の監督賞はじめ多部門で受賞。最新作『請問,還有哪裡需要加強』は今年の台北電影節でオープニングを飾った。この他、原作の映画化や自作の脚本を担当した作品も多い。
『あの頃、君を追いかけた』でいきなり歴代台湾映画興行成績の4位となった時、ギデンズは名前だけの監督で実際には匿名のベテラン監督がメガホンをとった、という噂が流れた。実は、この噂の発信元が宣伝効果を狙ったギデンズ本人。メディアや口コミを利用した見事な戦略だ。"オレ様キャラ"というイメージも、何度もインタビューした経験で見事なセルフプロデュースであることがわかった。ギデンズは少年のような心をもつ才気溢れるクリエイターで、とてもフレンドリーである。

物語を支える期待の若手俳優たち

学園ホラーのため、キャストは若い俳優が多く出演しているが、主役を射止めたのは2014年に映画『共犯』でデビューしたデン・ユーカイ(鄧育凱)。一見繊細で弱々しい優等生役が、いじめの被害者から加害者へと逆転する底知れない狂気を的確に演じた。台湾のプレミアでは「恐ろしい目に遭うシーンではチビリそうになったし、カットがかかっても目の前は真っ暗で、カメラマンから大丈夫か?と声をかけられて我に戻った」と語ったように、たいへんな撮影をこなしたようだ。デビュー作『共犯』は日本でも配信で見られるので、ぜひ本作と見比べていただきたい。
一方のいじめグループのリーダーを演じたのはケント・ツァイ(蔡凡熙)。本作の前に放送されたドラマ『通靈少女』が大ヒットし、彼自身も人気急上昇したが、撮影はこちらの方が先の為この映画が実質デビュー作となる。今年3月に大阪アジアン映画祭で上映された台湾映画『黒の教育(原題:黑的教育)』に主演し、台北電影賞の主演男優賞にノミネートされた。まだキャリアは浅いが、これまでにも『通靈少女』でドラマアワード金賞奨と、映画『痴情男子漢』で金馬奨の新人賞にノミネート経験がある、期待の新世代俳優だ。
怪物の姉役はユージェニー・リウ(劉奕兒)。2015年からドラマで活躍し、本作がスクリーンデビュー作。その後も主役街道まっしぐら、着実にキャリアを重ねている。台湾のプレミアで、「怪物になる演技は準備万端、小さい時から手足4本で階段を登るのが大好きだった」と、観客を笑わせていた。東京国際映画祭で監督と共に来日した時は、日本語で挨拶をして、会場から大きな拍手が沸いた。本作以外に日本で見られる出演作品は、Netflixで配信されているサスペンスドラマ『未来モール』がある。
この他、ギデンズ監督作品の常連であるクー・チェンドン(柯震東)、ビビアン・ソン(宋芸樺)ら多くの人気スターの友情出演がスクリーンを賑わせているのも楽しい。そして、忘れてならない重要な役がガオ・バイハー(高百合)が演じた廊下の机に座る女子高生だ。監督は当時のインタビューでこう語った。
僕がこの映画で一番撮りたかったシーンは、最後に怪物の姉が妹をかばって一緒に死んでいくところです。こういう純粋な愛を伝えたいと思いました。そして、エンディングは主人公が全員を殺して大笑いするという予定だったのですが、撮影しているうちに、いや、そうじゃないと思い、主人公は1人だけ廊下に出されている女の子は生き残るべきだと考え、彼女に希望を託す結末にしました。なぜいじめるのかとというのは、ぜひ見た人それぞれが考えて欲しい
そしてこの役はガオ・バイハー以外には考えられなかったと言っている。それに応えて彼女も特筆すべき演技力を見せている。実は彼女は監督が所属する事務所のスタッフをしていたこともあり、監督とは旧知の仲。ギデンズ作品には欠かせないバイプレーヤーとして、演技でも活躍中だ。監督は、本作の脚本の段階からこの役は彼女に決めていたという。
『怪怪怪怪物!』にはギデンズらしい血生臭ささえエッセンスにしてしまうユーモア、青春の光と影の中に散りばめられた社会問題が含まれ、台湾ホラーの重要なモチーフである家族愛がしっかりと根幹にある。
★おまけ
台湾プレミアとなった2017年の台北電影節でもらったグッズ。おいしくいただきました。(中身は台湾名物すいかジュース)

特集:台湾ホラー最前線!|視聴方法

配信で観るなら

放送で観るなら

BS10「スターチャンネル」にて8/12(土)・8/13(日)ほか放送予定
詳しい放送情報は>>

オカルトエンタメ大学 コラボ番組

チャンネル登録者数16万人のYouTubeチャンネル「オカルトエンタメ大学」とコラボ決定!怪談研究家・吉田悠軌らによる「特集:台湾ホラー最前線!」作品についての解説動画も配信中。

【怪談】今でも残る風習・信仰が続々登場!台湾最恐の実話怪談会を開催(吉田悠軌×クダマツヒロシ×チビル松村×宮代あきら)

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