「自分の人生なのに、自分で責任を負っていなかった」ビリー・パイパー×ルーシー・プレブル対談全文|『超サイテーなスージーの日常』
『超サイテーなスージーの日常』主演のビリー・パイパーと、脚本のルーシー・プレブルによるインタビューが到着。共同で製作総指揮も務めているふたりが、本作を作るにいたった経緯や、作品にこめたメッセージなどを語ってくれました。ぜひご一読ください。
ルーシー(以下:L):BBCの社員食堂で会ったんです!『Secret Diary of a Call Girl(原題)』の話をしましたが、ビリーの頭の良さと率直さに感動しましたし、嬉しかったのを覚えています。
ビリー(以下:B):私たちふたりとも、ありきたりではない作品を作りたいという点にこだわりがありました。
L:お互い求めるレベルが高いので、こうして良い友人同士になれたことが嬉しいです!個人的にはあのドラマでの一番の収穫はビリー本人でした。こんなに嘘がなく、鋭い感性を持った人と仕事ができたのは初めてだったんです。
B:『超サイテーなスージーの日常』のもとになった『Secret Diary of a Call Girl』の後もずっと連絡を取り合っていました。あのドラマは様々なことが猛烈に変化し始める、特に20代後半から30代前半を描いています。今思えば当時の私たちは毎日のように話をして、お互いの不安を解消していたように思います。
L:あの時期、私たちの人生にはお互い様々なことがあって、「覚えておかなきゃ」なんて話してはいましたが、作品にしようとは考えていませんでした。しかし5~6年前にビリーが、私たちが話してきたことや面白いと思ったことをテーマにTVドラマを作るべきだ、と提案してくれたんです。そこから考えをまとめるまでには、しばらく時間がかかりました。
B:最初はもっと友情をテーマにしたドラマとして企画をスタートしましたが、最終的にまったく違うものになりましたね。
L:より大胆なアイデアが必要でした。「ハッキングによって、自分の人生をさらされたひとりの女性」というアイデアにたどり着いたことで、クリアで強力で現代的なプリズムを通して、すべてを見せることができると思いました。
Q:このドラマを作りたいという熱意に対し、実際に制作してみていかがでしたか?
L:スケジュール、予算、物理的できることには制限がありましたが、逆にクリエイティブ面での制限はほとんどありませんでした。数多くのTV番組がある中で、より過激で面白い番組を作るチャンスでした。局側も、進歩的かつ責任を負う覚悟を持ってくれましたし、何よりもビリーとの仕事を熱望していました。
B:自分のことをよく理解していないんだと思います。女性に特有なことだと思いますが、彼女には様々な一面があります。自分が欲しいものを得るためには、色々な仮面をかぶる必要があるからです。他人によって決めつけられ、多くの人格を身に付けてしまいました。彼女は感受性が強くて、隙だらけで、繊細で、子供の頃から型にはまったイメージを押し付けられてきた女性なんです。
私たちは、ありきたりな物語にはしたくなかったんです。今、人々は大量の作品に触れるようになり、自分でも意識しないうちに展開を予想しながら観ています。しかし、そんな風に予測可能な物語とは違うものを作りたいと考えました。
B:自伝的なドラマではありませんが、30代女性としての私の様々な思いが反映されています。役者という設定にしたことは、多くのストーリーやエンターテインメント性を生み出せました。
私の写真は過去に一度もハッキングされたことはありませんが、今やオンライン上に様々な情報があり、誰であろうとスマホをなくせば大ごとです。大それたことをしなくても、誰かの人生を破壊できる時代です。ほんの数行のメールで人生が丸ごと台無しになる可能性もあります。
この物語は「仮面の下のその人自身を見つける」という身近なことをコンセプトにしているので、周りで起こり得ることを描くことで、敬遠されないようにしたかったんです。
L:私たちはセレブリティの世界を“楽しく、きらびやか”に描くのではなく、その真実を伝えることにしました。真実は、面白くて示唆に富んでいてダークです。
この世の中で衆目にさらされながら生きている女性たちのことを考えました。ブリトニー・スピアーズの精神的ダメージ、リリー・アレン、シャルロット・チャーチ、ジェニファー・ローレンスのプライベート画像の流出などもありました。いずれも世間を賑わせましたが、騒動が収まった後の話や彼女たちの思いなどは耳にすることはありません。私たちはそうした騒動の"その後"にとても興味を持ったのです。
このドラマではスージーの気持ち変遷や、彼女の人生にこの騒動がどう影響を及ぼしたのかを描いています。彼女は30代になるまで自分自身を見つめ直すことを避けてきましたが、ついに向き合うことになります。それは私にとって共感できる点でした。
Q:スージーとコブの結婚生活はどうなっているのでしょう?
L:ぎりぎりで保っていますが、かなり不安定です。ふたりともどれほど危うい状況かは理解していません。これは別に彼らに限ったことではなく、どんな夫婦にもある話です。私たちの親の世代は昔ながらの古い考え方でしたし、逆に私たちより若い世代はルールに縛られず、流動的な生き方に慣れています。私たちはそのはざまの世代だと思います。
スージーは自分自身では思いもよらなかった立場を求められていたりします。そのひとつが"妻"です。これは複雑な部分で、スージー自身が妻になることを選んだ一方で、どこかやらされた感もあります。そんな中で、耳が不自由な息子のフランクが、ふたりの結婚をつなぐ役割を果たしてくれています。
B:それと、結婚生活にまつわるお金の話、とくに女性が男性より稼いでいる話も書きたかったんです。公の場でそんな話をする人はいませんが、女性たちは仲間内ではよく話題にしますよね。
L:スージーが経済的に家族を支えているので、画像流出が与える影響は家計に響くはずです。しかし大学教授の夫、コブはスージーの仕事はくだらないものだと考えている節があります。
L:15歳で一躍ティーンスターとなり、現在は連続ドラマにゾンビの役で出演しています。仕事はありますが主役のような大役ではありません。
B:ちょうど仕事が激減する時期に差し掛かっているのです。今や落ち目の女優ですね。
Q:ドラマはエピソード1の1日目から彼女のトラウマのレベルをたどっていく構成になっているのですか?
B:画像流出という衝撃のあと、次はトラウマの段階へと進みます。
L:「一体何が起こったのか?」「犯人は誰なのか?」と進むスタイルは、実は当初つまらないアイデアだと考えていました。法的な問題よりも、それがスージーの生活に与えた打撃とドラマチックな真実を描きたかったからです。
そこでテーマがブレないようにするため、各エピソードを一話完結型にして、映画的なスタイルにすることにしました。私がテーマに取り組み、ビリーが激しく揺れまくる気持ちを表現するのです。一話完結のスタイルにすることでテーマも心情もすべて入れ込むことができました。
ショック、拒絶、恐怖…というスタイルを考えていくうちに、恐怖ならばホラー映画のように撮影することが一番効果的だと最終的には思い至りました。
B:全体を通して抑圧的で、どの感情にも常にストレスが付きまとっているような雰囲気を出したかったんです。
Q:ご自身も役者ですが、同世代の落ち目の女優を演じるのは大変ではありませんでしたか?
B:収録中はあまり自覚していなかったんですが、24時間365日大変な目に遭っている人を演じたのは確かに大変でした。さらに、製作総指揮という立場もまたストレスを増やしました。様々なことに対処せねばならず、失敗はほぼ許されません。まさに何でも屋のような仕事でした。
Q:スージーをティーンスターという設定にした理由を教えてください。
B:女性が歳を取るとともに何を失うか、というのは興味深いです。
L:他人から「あなたこういう人間ですよ」と言われるよりも前に、自分自身が何者か分かっていたことが一度でもあったか、と言われると自信はありません。30代になるまで、男性からモテるためとか、両親の期待に応ええるため、といった理由でいろいろなことを決めていたと思います。気付けば自分の人生なのに、自分ではほとんど責任を負っていなかったんです。
その象徴が、幼いころからメディアや芸能界に求められるがままで、その結果常に問題を抱えることになったスージーという女性なのです。スージーは15歳でセレブになり、世間に要求された通りにふるまい、しかし最終的には人々の興味の対象から外れていく存在になりました。
Q:ジョージー(・バンクス=デイヴィス)に監督を依頼した理由を教えてください。
B:長い時間をかけて決断しました。ジェンダーがどうこうというよりも、この作品のメガホンを取るのにふさわしい人と仕事をしたかったんです。ジョージーと会ったのは監督探しも終盤の頃でした。
L:いろいろな監督と打ち合わせをすることがありますが、最高に実りのある話し合いをした後、その人の作品を観てみたら会話とは全然違っていた、なんてこともあれば、もちろんその逆もあります。
B:ジョージーにとってもこのドラマの演出を引き受けるのは難しい選択だったかもしれません。何しろ私たちはすでにクリエイティブ面で様々なことを考えていたし、非常に強い意見も持っていたからです。とにかくごくありふれた普通のドラマにしたくないという思いで頭の中がいっぱいだったのです。より抽象的で、変わったものを求めていたのですが、ジョージーは私たちの望みを満たしていました。
L:ジョージーは短編やCM映像の出身です。つまりそれは、ベテランのTVドラマ監督とは違う独特なトーンでオリジナリティのある物を作り出す経験が豊富だということを意味していました。私たちは野心的で、過激で、変わったテイストを好む人を探していたんです。
B:それってつまり私たち自身ですよね。
L:それに私たち、ふたりとも仕切りたがり屋ですからね……。
Q:レイラ(・ファーザド)とダン(ダニエル・イングス)をナオミ役とコブ役に起用した理由を教えてください。
L:ダンの映像を見てすぐに、この人だと思いました。怒りを抑え込んでいる姿には説得力がありました。リアルでわざとらしさがなかったのです。
B:コブという人物に好意を抱いて欲しいとは思っていませんでしたし、むしろその逆でした。虚栄心が透けて見えるような役者は全く面白くないですが、ダンはそういうこともなく、彼の中にある激しい怒りを共有してくれたのです。
L:私たちが会った役者の多くは、コブの良い部分や同情したくなる部分、そして哀れさを見つけ出そうとしていました。ここ数年のご時世もあり、男性は悪いキャラクターを演じることへの恐怖心があります。ですからバディ役やナイスガイ役を演じるのです。そんな中コブはスージーとの夫婦生活に悩む役を、ダンは激怒しているコブを思い切り演じてくれて、時にはブラックユーモアも交えるなど、しっかりと自分のものにしていました。
B:ダンの後でレイラと会いました。とてもドライな性格で、私たちは大満足でした。スージーと正反対で、気持ちにも安定感があり、意思も固いナオミにぴったりの人だと思ったのです。
L:ナオミと私には共通点が沢山あります。彼女は支配欲もあるし知的好奇心も強いんです。
L:エピソード2の、コミコン会場で記者会見をするシーンです。これにあわせて美術スタッフが、スージーが過去に出演していたという設定のTVドラマ『Quo Vadis』のポスターをデザインしてくれました。劇中に登場する架空のTV番組なのですが、コスチュームもウィッグも用意されていて……私自身はSFファンなので、現場に立った時には「夢が叶った!」と思いました。
B:私のお気に入りはエピソード1の最後に、スージーが歌を歌いながら住宅地の道でダンスをするシーンですね。少し変わり者のスージーとそんな彼女のドラマがはじまる様子をあのダンスを通じて視聴者に伝えることができたと思います。まるで『オリバー!』のワンシーンのようでした。
『超サイテーなスージーの日常』
原題: I HATE SUZIE
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