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5作観ることで英国ブラックコミュニティを “立体的”に知ることが出来る/『スモール・アックス』試写会レポート(登壇/宇野維正) original image 16x9

5作観ることで英国ブラックコミュニティを “立体的”に知ることが出来る/『スモール・アックス』試写会レポート(登壇/宇野維正)

解説記事

2022.03.29

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『スモール・アックス』第1話の最速無料試写会が3月26日(土)に開催され、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんが登壇。“BLM運動” に至るまでの、イギリスにおける黒人の知られざる闘いの歴史を紐解くトークイベントが行われました。本記事ではイベントの模様をご紹介いたします。

目次

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5作それぞれが違う魅力を持つ

 5本の映画がアンソロジー形式でまとめられた本作について「今日上映された第1話『マングローブ』を初めて観た時は”かなり硬派だな”、という印象でした。これが5本あるのか?と(笑)」と初見の気持ちを告白。「第2話の『ラヴァーズ・ロック』は1980年のとある晩、ウエスト・ロンドンで 開かれたハウスパーティーが舞台で、カリブ系移民の若い男女の出会いが描かれていて、第1話はとはかなり違う印象です。カンヌ映画祭で゙は 第1話と第2話が上映されたそうで゙、確かにその2本を観ればこの映画アンソロジー・シリーズの“幅”が分かると思います」と全体の構成を解説した。
スモール・アックス

スモール・アックス

スティーヴ・マックイーン監督が今回描いたのは英国の黒人差別

 映画『それでも夜は明ける』で長編3作目にしてアカデミー賞作品賞を受賞したスティーヴ・マックイーン監督について「彼はイギリス出身で、もともとはモダンアートの作家。アーティストとして既に成功していた彼が映画を撮り始めたら、アカデミー作品賞まですぐに上り詰めてしまった。『それでも夜は明ける』ではアメリカの黒人差別の歴史が描かれていますが、マックイーン自身はイギリス人ですから、自国の黒人差別についての作品もいつか撮らなければいけない、という気持ちがあったんだと思います」と監督自身の製作に至る気持ちを推察。
 また第2話『ラヴァ―ズ・ロック』以外のエピソードは全て実在に起こった事件が描かれている本作について「監督本人のインタビューにもありましたが、ウィンドラッシュ世代(第二次世界大戦後にカリブ海地域からイギリスへ移住した人々)の当事者から“一次情報”が得られるうちに映画にしたいという思いが強く、人種主義に対してプロテスト(抗議)したいという気持ちももちろんあったと思いますが、映画の役割の一つである“記録”としてこのタイミングになったのではと思います」と語った。一方で、第2話『ラヴァーズ・ロック』については「第1話だけだとちょっと堅苦しい作品という印象もありますが、とにかく第2話も観てください!最高にとろけますから。音楽が生活にどれだけ深く根付いているかを描いた見事なビジュアル・エッセイになってます」と語り、オバマ元大統領が、2020年のベスト”映画”に選んだ第2話を絶賛した。
スモール・アックス

スモール・アックス

「The Black Jacobins(原題)」という柱

 あわせて、ボブ・マーリーのレゲエ曲「Small Axe」に歌われた不屈のメッセージ同様に、もう一つの“支柱”としてC・L・R・ジェームズ著の「The Black Jacobins(原題)」を挙げる。「登場人物が読んでいる本として別のエピソードでも登場します。これは18世紀にフランス領サン=ドマングに生まれてハイチ革命を主導したトゥーサン・ルーヴェルチュールについての本です。トリニダードから英国に渡ったジェームズはクリケットについての著書も残してますが、当時の英国社会で白人と対等に扱われる場所が、フェアプレイを前提とするクリケットのコートだけだったんです。そのことが、第1話『マングローブ』で描かれる法廷闘争にも繋っているんじゃないかなと。黒人にとって平等に扱われる可能性のある数少ない場所を描いているという点でも、ジェームズの著作と『スモール・アックス』は地続きにあります」と深い考察を披露した。
 最後に「本作はスティーヴ・マックイーン監督のキャリアでも極めて重要な作品です。5本のアンソロジーという形式で、すべて自身が監督しています。同じ監督が全エピソードの監督を務めるケースがTVシリーズで増えてきていますが、そうした新しい動きの中でも決定的な作品と言えるのではないでしょうか。1話1話が独立した形で、それぞれが1本の映画になっていて、5つ観ることで“立体的”に60年代後半から80年代中盤の英国ブラックコミュニティが浮かび上がる。僕自身凄く勉強になりました。是非2話目以降も観ていただければと思います」と最速試写会を締めくくった。
『スモール・アックス』
原題:SMALL AXE

(c)McQueen Limited
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