私はずっとジャンル作品が大好きでしたが、これまではどちらかといえば母親と息子の親子関係、家族間の確執、疎外された人々といったテーマを中心にしてきました。人は自分が知っていることを描くものだと言われますが、10年の月日を経て、私自身も変わっていくのを感じていました。
ですから、性的暴行を受けたひとりの少女が30数年後に家族のもとを訪れる姿を描いたミシェル・マルク・ブシャールの舞台「La nuit où Laurier Gaudreault s’est réveillé(原題)」を観劇した時、まさに自分のやりたいことが目の前に繰り広げられていると思いました。ミステリーとホラーが融合した家族ドラマを観ながら、1時間もたたないうちに私はすでにこの物語のシリーズ化をイメージしていたのです――舞台で描かれているすべてのエピソードや過去と現在の結びつけ方をスクリーンでどう描けばいいのか思い描いていたのです。さらに結末に大きな衝撃を受け、自分の次回作にこの作品以外は考えられないと確信したのです。
子供の頃に観ていたティーンドラマや初めてひとり暮らしをしたアパートで貪るように見ていた数々の映画の中でも、ホラーやスリラーはいつも私を夢中にさせてくれました。折に触れて自分も思い切って挑戦してみようかと思いましたが、当時の自分はまだ一歩踏み出す自信を持てずにいました。
しかし2011年、喪失の悲しみを機に出口の見えない世界に身を置くことになった青年のサイコセクシャルとストックホルム症候群を描いたブシャールの別の舞台「トム・アット・ザ・ファーム」を観て――私はついに舞台作品の映像化を決意しました。この舞台作品がまだ新人の私の挑戦を後押ししてくれたのです。まさにジャンル作品との出会いが私の人生を決める瞬間になりました。これ以後、私は再び映像化の機会を模索し続けていました。そのためミシェル・マルクの別の舞台作品を手掛けるというのは当然の流れのように思えました。
『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』はホラーとスリラーの要素が強く出ているように見えますが、ヒューマンドラマも描かれています。ラルーシュ家の幸せだった日々、憂鬱な日々、過去のいくつもの過ち、彼らの行く末を決めることになった数々の出来事が綴られています。登場人物たちがこれまで頑なに守ってきた秘密が暴かれることによって、闇に包まれていた悪夢も蘇ります。それは夜見る夢などではなく、彼らの心の傷をえぐり出し、たとえ明るい日差しの中にいても容赦なく付きまとう悪夢なのです。
このドラマには、人間の暴力性のほかに、逆境、恥、憎しみなどに直面した時、それらに屈したことで受けた惨い扱いなどが描かれています。しかし大部分に描かれているのは、我々もかつては子供だったこと、そして、惨い扱いに直面しどんな大人になったのかということです。そこには真実から目を背けるために受け入れてしまった歪んだ依存心、嘘、誤った信念などが描かれているのです。
グザヴィエ・ドラン
『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』
原題:LA NUIT OÙ LAURIER GAUDREAULT S'EST RÉVEILLÉ
作品公式ページ:
https://www.star-ch.jp/drama/lauriergaudreault/sid=1/p=t/
(c) Fred Gervais