『マイ・ライフ：インポッシブル』野村雅夫氏 解説｜動画文字起こし

ただのシングルマザー、かと思いきや、その正体は世界を股にかける敏腕スパイ！よくいるナメた隣人に、スパイのスキルを用いてお仕置き。シングルマザーの生きづらさを、M:Iシリーズもパロってみせつつコメディとして描く『マイ・ライフ：インポッシブル』の解説動画をお届け。

どうも、野村雅夫です。現代イタリア映画きってのコメディエンヌ、パオラ・コルテッレージ主演作を5本お届けする特集「ゴー！ゴー！パオラ！イタリア娯楽映画の進行形」。今回紹介する作品はこちら！

今回の特集でも放映している『環状線の猫のように』の大ヒットを受けて、2019年、我らがパオラと夫のリッカルド・ミラーニ監督が脚本も含めて再タッグを組んだ作品です。話の中心に据えられるのは、シングルマザーの生きづらさ。これをコメディーに仕立てるには誇張が一つ肝になると思うんですけれども、我らがパオラ演じるジョバンナの職業をここで発表いたしましょう。

諜報機関のエージェントです！これはもうシングルマザーの究極型ですよね。だって、まだ保育園に通うような娘を育てながらのスパイ業務ですからね。ただし、「お母さんスパイなの」なんてことはもちろん言えませんから、表向きは財務省の公務員ということにぼやかしてあります。

ただ、もうジョバンナはスパイとしてはキレッキレですよ、エージェント業務はね。指令があればすぐ海外にビューっと行きますからね。複数の言語を颯爽と使いこなしまして、『ミッション：インポッシブル』さながらですよね。多分トム・クルーズですよね、これ。という場面、コネタがいろいろありまして、ニヤニヤニヤニヤしてしまうのですけれども、思い出してください。

ジョバンナはシングルマザーですから、娘のお迎えがあります。そういう時は海外から全力で戻ってきます！この辺のメリハリの付け方がまあ、ミラーニ監督達者で笑わせてくれます。その一方で展開するのが高校の同級生達との同窓会です。ジョバンナはエージェントですからSNSの類をやってませんし、高校の時の友達とももうあえて関係は絶ってたんですけれども、一時の気の迷いから参加しちゃうんですね。

ここで気の合う男女5人組の再会シーンにおける笑いの積み重ね方！これは面白いし、ここ一番で繰り出す監督お得意のスローモーション爆笑必至のワンカット！ここは見逃さないでいただきたい。集まってみると、みんな社会的にいい感じに暮らしを送れているように見えるんですよ。

成功していると。例えばキャビンアテンダント、小児科医、サッカーのコーチ、学校の先生、ね。ただ、よくよく話を聞いてみるとですね、みんなそれぞれにトラブルを抱えているんですね。目指していた職業に就けたのに、こんなはずじゃなかったとね。その原因は、生き馬の目を抜く自己中心的な言動を取る現代人の性質にある。

それに気づいたジョバンナは、友人たちを苦しめる輩たちに、エージェントとしての特殊なスキルを生かして、独自のお仕置きをしてまわるんです。さて、どうなりますか？そんな中、ジョバンナは考えます。じゃあ自分はどうなんだろうかと。キャリアを優先した結果、仕事がうまくいっていても友達とは気軽に付き合えないし、夫とは離婚、娘との関係もぎくしゃくしています。

ミラーニ監督は、現代人が生きていく上での違和感を笑いに昇華することを得意とする監督なんですけれども、この作品では日々の暮らしにおけるカスタマーハラスメント＝カスハラであるとか、人生におけるキャリア形成とプライベートのバランスを取ることの難しさといったことを通して、イタリアの中産階級のフラストレーションを明らかにしていると思いますね。

ただ、そこにまさかのスパイものを結びつけるという突飛なアイデアは、発明と言ってもいいんじゃないでしょうか。

この作品、そして僕たち京都ソーナッツクラブが選んだ他の作品も、ぜひスターチャンネルでご覧ください。